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2014年9月2日火曜日

【書評】自ら動く。その先にやるべき支援が見えてくる~『なぜ、川崎モデルは成功したのか?』/藤沢久美



7月末、経済産業省の有識者委員会で、「小規模企業振興基本計画」の原案が大筋、了承されまた。中小企業の中でも事業規模が小さい小規模企業向けの支援策をまとめたものです。中小企業の約9割を占める小規模企業に特化した支援策を打ち出すことで「アベノミクス」の効果を地方にまで波及させていくことが狙いだと言われています。

このように日本には、さまざまな中小企業支援施策があります。正確にその数を把握できる人はいないのではないか、というほど多数存在しています。しかし、十分な成果をあげている言い切れるものはけっして多くありません。そのなかで、川崎市の支援策は大きな成果をあげていると言われています。本書では「川崎モデル」と呼ばれるその施策について、それがどのようにして生まれ、継続してきたかについて考察されています。

『なぜ、川崎モデルは成功したのか?』 藤沢久美(著)・実業之日本社(出版) 
<目次>
プロローグ 川崎モデルについて
第1章 川崎モデルの誕生までの歩み―工都・川崎市の空洞化
第2章 成功例で見る川崎モデル―成功の鍵は「癒着ではなく密着」
第3章 川崎モデルの営業スタイル―企業の強みを見える化する方法
第4章 川崎モデルのチームづくり―大企業・銀行・大学・中小企業・役所
第5章 イノベーションを生む川崎モデル―オープン・イノベーションの実現
エピローグ 川崎市のさらなる進化


■川崎モデルとはなにか?

「川崎モデル」とはなんでしょうか。実は本書に登場する人それぞれが異なるモデル感を持っています。人により定義は異なります。しかし、すべてに共通する部分もありました。
支援する人々が企業のことをよく知っているということ、そして自分のことのように企業のために何をすべきかを考え、実践する。しかもそれは、一人の担当者がリードして動くのではなく、支援担当者それぞれが創発的に動き、多くの人を支援の渦に巻き込んでいく。(p14)
具体的には次のような流れで進んでいきます。(p203の図表から)
1、元気な企業の発掘
まず、市役所の職員がうごくわけですが、アンケートやSNSのチェック、経営者との勉強会や金融機関からの紹介を通して、市内の元気な(中小)企業を発掘していきます。
2、企業の強み発見
キャラバン隊(市役所職員、コーディネーター、金融機関、大企業知財担当者など)で訪問し、経営者との面談を通して強みを発見していきます。
3、強みの見える化
市が行う各種認定制度や受賞イベントへの応募促進。そして認定・受賞後はメディアへの露出を後押しする。
4、オープン・イノベーション
大企業との知財交流、大学との共同研究、異業種企業とのコラボレーション、といった活動への支援



■「川崎モデル」は他となにが違うのか?

多くの自治体で、3、「強みの見える化」ついては取り組まれています。各種認定制度や受賞イベントの企画は全国で行われています。別に川崎市以外の自治体が中小企業支援について積極的ではない、ということではありません。

ただ、認定制度を作ったり、受賞イベントを企画したりして、「さあ、応募してください」と待っているところが多い印象を受けます。そこが違いです。川崎は市役所自らが動きます。自ら発掘し、訪問し、「こんな強みがあるのだから応募してください」と促しています。

行政の職域を超えるのではないか、という批判はあり得ます。実際、このモデルを確立していく歴史の中では、市役所内部からの強い反対もあったと書かれています。しかし、危機感と強い意志を持ち、支援に取り組み続けた職員がいることでいまの形を作り上げてきました。先頭に立って動く人がいるからこそ、金融機関や大企業など多くの人々がその輪の中に巻き込まれてきたのです。

大企業と中小企業が連携することで、新しい製品の開発の可能性が高まります。双方にメリットがあるわけです。その場合、中小企業側には大企業に対する警戒心はあるでしょうし、また大企業側にも下請け意識がないとは言い切れません。しかし、川崎の場合、市が関わることでそうした懸念が払しょくされています。もちろん、ただ関わるだけで払拭できるわけではなく、上に示したようなさまざまな取り組みがあるからこそ、中小企業も大企業も市を信用して、動くことができるのです。

その結果、いままでにない製品やサービスが生まれてきています。「川崎発」のイノベーションが起きているといっても過言ではありません。

■新しい中小企業支援の可能性

本書のタイトルは『なぜ、川崎モデルは成功したのか?』です。過去形を使っていいのか、という疑問はあると思います。成功とはなにを指すのか、という指摘もあり得ます。しかし、いままでにない取り組みをし、それを継続し進化させてきていることは間違いありません。川崎市のやり方が、多くの自治体や中小企業支援機関のモデルになり、川崎市もまた、いまのやり方を進化発展させていく。そうすることで、日本の中小企業支援はいま以上に有効性を増していき、日本の潜在力がいっそう発揮できるようになると私は考えています。

その際に、忘れず心がけなければいけない前提はたったひとつです。これさえクリアできれば、あとはそれぞれ地域がそれぞれの特徴を活かしたやり方で取り組んでいけるはずです。

まず、自ら動く。しかし、それは市役所職員などの役所の人間だけに求められることではない。中小企業支援に本気で取り組みたいと思うなら、まず自ら動き、経営者と語り合い、経営者の同志になる。そのとき初めて、支援のために自分がやるべきことが見えてくる。そして、それを実現するために必要な仲間も見えてくる。(p224)
「中小企業支援」に関わる人たち―それは役所の職員だけではありません。金融機関や大学をはじめとする研究所関係者、NPO法人の方や中小企業診断士など各士業の方々。そうした人にとって本書は、新たな視点とヒントを与えてくると思います。


<参考記事>
自ら動く。その先にやるべき支援が見えてくる~『なぜ、川崎モデルは成功したのか?』(中郡久雄 中小企業診断士)/シェアーズカフェ・オンライン

自ら動く。その先にやるべき支援が見えてくる~『なぜ、川崎モデルは成功したのか?』(中郡久雄 中小企業診断士)/ Yahoo!ニュース



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