ハイブリッドコンサルタント

2016年10月11日火曜日

【研究会】『弱点で進化を起こす』~常識を外して集客を成功させる~中小企業政策研究会・全体定例会より


約一月前、先月の中小企業政策研究会の全体定例会で、水族館プロデューサーで日本バリアフリー観光推進機構理事長の中村元さんのお話をうかがいました。

テーマは
「弱点で進化を起こす~常識を外して集客を成功させる~」
でした。

中村さんは、「サンシャイン水族館」や「北の大地の水族館」の再建を手掛けたりする一方、廃業寸前の旅館をバリアフリー対応に改造させることで集客を20倍にするなど、ユニークな実績をあげてこられた方です。

そこに一貫しているのは、「弱点は克服せず。認識して優位に立てるように使う」ということだと思いました。具体的な事例をうかがうなかで、なぜそのようなことが可能になるか、考えてみました。




■常識を疑う

水族館のメインターゲット層は子供だと言われています。子供が「水族館に行きたい」と言い、それに伴って大人たちが来館する、一般的にはそう考えられています。しかし、本当でしょうか。

ためしに子供に質問してみましょう、
「動物園と水族館、どっちに行きたい?」
多くの子供は「動物園」と答えるのではないかと思います。子供たちが見たいのは、パンダやキリンやゾウだからです。

だからインターゲット層は子供というのは思い込みではないだろうか。水族館は大人が子供を連れてくる場所なのではないだろうか。動物園に行きたいという子供を、距離や時間の都合、大人たちの趣味によって水族館に連れてきているのではなだろうか。そう仮説を立ててみれば今まではと違うマーケティングの施策を打つことが可能になります。

だから、サンシャイン水族館は「デートに使える水族館」であることもアピールしました。大人をメインターゲットとするためです。


■ターゲットは狭く絞り込む

「デートに使える水族館」とは若いカップルをターゲットにしたと思われるかもしれません。事実、そうしたお客様によって、「平日の夜」といういままで集客が弱かった時間帯にお客様が来てくれるようになりました。

しかしそれだけではありません。大人たちに魅力をアピールすることで夫婦も来場してくれるようになりました。むろん、子供がいれば一緒に家族でやってきます。これが、年間100万人を切っていた集客を224万人まで増やすことができた要因のひとつです。

こうした考えは、バリアフリー観光にも生かされています。

身体障害者は全人口の約3%です。たった3%とターゲットにするのは広がりを欠くと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。

たとえば、現在の小学校では全国平均で0.3%、車いすを利用する子供が普通クラスに就学しています。こうした子供はもちろん、修学旅行にも参加します。そうであるなら、利用する宿がバリアフリー対応でないと、その宿は利用できなくなるのです。一人ではない。その生徒が所属する学年全体が、宿泊できないことになります。

さらに、僕が若いころに比べ、身体障害者の方の社会進出は進んでいます。旅行に行くにも、身体障害者と介護者の関係ではなく、友人同士のプライベートな旅行が増えています。そうした際に選ばれるのもバリアフリー対応ができている宿でしょう。同行者が介護者でない以上、身体障害者の方が自分で自由に動ける余地が大きいほど良い宿ということになるからです。

実は、バリアフリー対応ができていれば、足腰が弱ったと自覚している高齢者の方にも訴求します。身体障害者の方が使いやすいなら自分たちも大丈夫だろうと考えるからです。

こうして、狭く絞ったターゲットの向こう側に、もっと大きな市場が広がっている場合も大いにあり得るのです。

■弱点を克服せず 利用する

サンシャイン水族館は、集客のエリアターゲットを中央線より北、池袋周辺に絞り込みました。
水族館は海の近くにある場合が多いです。海に近いほうがロケーションは優位だし、水も豊富に使うことができからです。都心のど真ん中に立地し、ビルの最上階にあり水利用に制約があるサンシャイン水族館は、立地という逃れられない弱点を抱えていたのです。

だから、海沿いにある水族館とは正面からぶつかることはしませんでした。都内であれば、「しながわ水族館」などに行きやすいエリアはターゲットから外しました。そうした水族館に行くのに手間がかかるようなエリアに住む人々を、池袋に足止めし、サンシャインに引き込もうとしたのです。

さらに、最上階であることを逆手にとり、“天空のオアシス”をコンセプトとして打ち出します。屋上を緑化庭園に、夏にはビアガーデンを開催。話題を呼べば、人は集まってきます。こうして集客を伸ばしていったのです。

もうひとつの例です。「北の大地の水族館」は、北海道北見市留辺蘂町にあります。内陸地にあり、展示しているのは淡水魚。海の魚に比べると特徴がなく、見栄えはしません。さらに、冬は露天風呂に入っていると髪の毛が凍ってしまうほどの寒さになります。

こんなところにお客様は来てくれるのか。普通に考えれば弱点だらけの施設です。しかし、この悪条件を生かして、世界初、誰も見たことのない凍った川の下を泳ぐ魚たちの様子を見ることができるようにしたのです。こうして年間集客は15倍になり、現在は30万人を突破するまでに成長しました。

■事実はひとつ、考え方はふたつ 

どこに立地しているのか、それがどんな条件なのか。それは変えることのできない事実です。しかし、それをただの弱点だと考えるか、その中にプラスに転じられる要素はないのかと考えるか、考え方は二つあります。


「欠点は魅力のひとつになるのに、みんな隠すことばかり考える。欠点はうまく使いこなせばいい。これさえうまくいけば、なんだって可能になる。」

かつてココ・シャネルはそう言いました。すべての弱点には長所が含まれる。そう思い、それが何かを考え抜くことでイノベーションが生まれてきます。中村さんが示した実例がそれを証明してくれていると思います。


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